―一般的にからし鯉を掛けると、模様が黄色くなりやすいんですか?

五十嵐 素直に黄色として出てくるのはあまりいないですね。オレンジ色というか絵の具の朱色……紅の上に白だか灰色だかが被っているような、少しくすんだサーモンピンクみたいな色で。 

 前々からからし鯉が手に入ると、色々な鯉に掛けたりもしていたんですがなかなかそういった色ばかりで、レモンイエローのような鮮やかな色というのはなかなか出なかったんですよね。だけど小西さんのからし鯉は1代目からわりと出てくれて、からし鯉の直の子だから模様としてはそこまでキワがはっきりしているわけではないんですが、イメージするような綺麗な黄色で。それにオスだけに赤目が出たんですよね。

―ほう。赤目が関係するんですか?

五十嵐 和鯉のからし鯉とかドイツのからし鯉を掛けると、オスメス両方に赤目が出るんですけど、紅白や銀鱗紅白を掛けたのについては、オスは赤目が出るんだけどメスは出なくて。メスにはしっかり濃い黄色がついたんですけど、裏を返せば色素的に濃いということだから、どうしても赤いシミが出やすいんだけど、兄弟そろって出なかったんですよね。それでこれは面白いと思って、銀鱗五色を掛けてみたんです。

―その時は何本ぐらい残しましたか?

五十嵐 野池2面に18万匹の稚魚を放して、上げてきたので無地もの入れて500〜600匹ぐらい。無地ものは厳しく切りましたけど、模様ものは少し足りなくても五色の要素を持っていたり、キワや色、体が良いとか品評会的に見て良い鯉ではなくて、鯉の素質的に良さそうなものを残していったので、だいたい5分の1が無地ものでそれ以外が模様ものでしたね。

―全体的な率はいかがでした。

五十嵐 純粋な模様もの同士で採るのに比べると当然率は悪いですけど、おかしな組み合わせをしたわりにはまあまあいいかなと(笑)。

 去年の春までに中羽とかを売ったりして残ったのが80〜90匹ぐらいで、そこから立て鯉として黄色やオレンジ色の模様ものと無地もの合わせて50〜60匹ぐらいは残しましたね。

豆絞りがはっきりと現れている玉兎。2歳メス(写真:横浜錦鯉提供)

―当初、お客からの反応はいかがでしたか?

五十嵐 お客さんもよっぽど変わりものが好きな人じゃないと手を出さないから、「これなんだ」みたいな(笑)。毎年買いに来てくれる東南アジアのお客さんでも「オススメある」なんて聞かれた時に、これどうだって言ったら苦い顔をしていたけど、いいから持って行けと(笑)。

―ちなみに、なぜ「玉兎」という名前をつけたんですか?

五十嵐 「玉兎」って本当は「ぎょくと」と読むんですけど、中国の伝説に登場する月に住む兎のことを言うんですよね。そこから、夜に真っ黄色の月が浮かんでいるようなイメージで、五色の藍地に黄色い模様が乗っているので「玉兎」と名付けたんです。

系統の違う五色地に

レモンイエローの模様を

―錦鯉の黄色は安定しないと聞きますが、からし鯉由来の黄色は何か特徴があるんですか?

五十嵐 からし鯉は一色でマスタード色に見えているのではなくて、レモン色というか黄色い色素の下に、空鯉っぽい地体があることでマスタード色に見えているんですよね。それが、他の鯉を掛けることによって色が反転したような、煤を被ったような汚い色になってしまうんです。同じようなもので五色と紅白を掛けても煤を被ったような真っ黒いのが出てくることがあるんだけど、どうしても地体が上に被ってしまって。

―いわゆる「紅を汚す」ということですね。

五十嵐 からし鯉をいじるとそういう傾向が強く出るから、最初に作った鯉もなるべく汚さないやつだけを残すようにして。

銀鱗玉兎/2歳メス

―一般的な五色のイメージは黒と赤ですが、玉兎というのは?

五十嵐 オスで使った廣井さんの銀鱗五色は、真っ黒な黒五色ではなく浅黄色というかグレーっぽい、紅を際立たせるような肌の色をしているから、地体はたぶんそんな感じになっていくと思います。ただ、からし鯉から引っ張ってきているので、浅黄地の綺麗な紺色の地体って乗りづらいんですよね。それを乗せようと思うと、どうしても灰色に寄ってしまって。

 玉兎の最終形態としては、かんのさん(かんの養鯉場/長岡)や廣井さんのような五色の地体に黄色が乗ったタイプと、もう一つは黒五色のような黄色を浮き立たせる黒い地体の2タイプがいれば面白いかなと。それに2タイプ作っておけばメスで使ったりオスで使ったり互いに使うことができますし、初代で作った小西さんの血筋と従兄弟どうしでの掛け合わせもできますので。

―先を見据えて系統の違う2タイプを作っておいたほうが後々改良しやすくなるわけですね。黒五色を使った掛け合わせでも着実に?

五十嵐 黒五色は昨年からやり始めて、まだ当歳しかいないのでなんとも言えないんですが、昨年はあおきさん(AO・あおきや/小千谷)と岩下さん(岩下養鯉場/長岡)から譲ってもらって黒五色を、一昨年に使った親の兄弟に2本掛けしたのと、一昨年使った初代のに川上さん(川上養鯉場/小千谷)の黒五色を掛けました。

―同じ黒五色でも3タイプのオスを使って。

五十嵐 昔の川上さんの五色は黒が強かったんですけど、最近は黒い雰囲気を残しながらも縁取りが出るというか、すごく面白い地体が出ますし、愛好家の池とかでも85㎝ぐらいになっているのを見ているから、これは伸びるのではないかと思って。

 一昨年のものとは別系統だからこれで3系統ができていますが、五色のようなきれいな地体になっているのはまだまだ少ないかな。
―成長によって五色地が出てくるような感じですか?
五十嵐 そうですね。全体的にうっすらと五色の地体は持っているので何かのタイミングで出てくるとは思います。以前、桃太郎さん(岡山桃太郎鯉/岡山)のドイツからし鯉に紅白をかけた時に白無地が出たんですけど、1本だけ煤っけが出なかったので白無地として飼っていたんですよ。それが5歳の越冬中に背びれのまわりが青っぽく見えると思ったら、ほんの2、3週間のうちに黄色い浅黄に変身してしまって。
 なので、五色を掛けた鯉もたぶんそんな感じで急に変化するものもいるだろうし、普通の五色みたいに水温だったり成長過程で五色地が出てくるのがいるだろうから、鯉の雰囲気を見ながらこれだったらいけるというものを選抜して残すようにしています。

(後編に続く)

玉兎/2歳メス。からし鯉の血がよく出ているため体型が良いという