自然産卵で稚魚の状態良好

健康親鯉は夏の産卵も問題なし

—新しい系統作りなどのお話を聞いてきましたが、ほかに以前と変わったことはありますか。

関口 以前は人工産卵だったんですが、最近はずっと自然でやっています。

—それは意外というか……。人工は作業は大変かもしれませんが、受精率が高いとか、オスを明確に分けることができるとかメリットも多いわけですよね。それをなぜ自然産卵に戻したんですか?

関口 一番の理由は自然のほうが楽だから(笑)。データを取ったりするのは人工のほうがいいと思いますが、これはうちの場合ですけど、自然だと孵化後に落ちる毛仔がほとんどいないし、稚魚も健康なんですよ。若鯉総合は全部自然で採ったんです。

—オスを3本かけたりするんだったら、人工のほうがいいような気がしますが……。

関口 池がないというのも理由で(笑)。オス1本につき稚魚を1面ずつ放しても、1面だけじゃ結果が見られないんですよ。1腹でも何面もないと。池の環境とかで全然変わっちゃうから。

—かなり思い切った方向転換ですよね。

関口 以前人工でやってたとき、二毛作目の時期に選別が始まっていて忙しくてとてもやってられないなと思って、自然でやったらすごく卵が出たんですよ。それで自然のほうがいいんじゃないかと思って、そこから一気に変えちゃった。稚魚の元気さも全然違うので。

 それと、親鯉の管理をそれまで以上に気をつけるようになってからは、卵の状態もすごく良いです。

—それはどんなことですか?

関口 具体的に言うのは難しいんですが、たとえば水温はあまり高くせずに、餌もほどほどであまり太らせないようにとか。

—健康的に育てるということですか。

関口 そうですね。ずっと餌を食べ続けるような環境にはしないというか。産卵がうまくいくかいかないかは、とにかくメスの状態が一番の肝だと思ったので。去年の三毛作目はお盆に採ったんですが、そのときの子が一番出来が良かったくらいです。数も出すぎるぐらい出ましたし。以前だったらその時期に産卵させようとしても過熟してしまっていたんですが、そういうのがなくなりました。卵の調子が良いと受精率は必ず高くなります。

—なるほど。それも生産鯉の質の向上につながっていくんでしょうね。あと、飼育池に関してはいかがですか? 最近は2歳以降、泉水で飼うケースも増えているようですが。

関口 野池、泉水両方使いますけど、若鯉総合は全部泉水で飼育しました。そのあたりはリスク分散ですね。鵜もいっぱいいるし、小さい当歳ってあまり野池に入れられないんですよ。35㎝ぐらいでも持って行かれちゃうから。

—若鯉総合はどれもだいたい40㎝ぐらいだと思いますが、2歳の冬で40㎝というのは泉水のほうが調整しやすい?

関口 そうですね。サイズコントロールは泉水はすごくしやすいです。サイズを決めてこのぐらいにしようかなという場合は枡ごと分けて、ここは40㎝以下、こっちは30㎝以下、20㎝以下みたいな作り方をします。

—それは魚の数などで調整を?

関口 数と給餌量と水温で。あとは水の回転とか。回転が多いと運動するから、そのぶん食わなきゃいけなくなって、でっかくなっちゃう。

—緻密なコントロールがあるんですね。

関口 人間と一緒ですよ。いっぱい食わせようと思ったらいっぱい運動させたほうがいいし。どんどん大きくするんだったら野池のほうがいいんですけど、じゃあ秋上げでどっちが綺麗かといったら、泉水で飼っているほうが色味が強いんです。だから2歳は泉水で飼った魚のほうが先に売れます。体の迫力は野池のほうがあるので、どっちを取るかですね。

—もし自分の好きなように泉水の設備が作れるなら、野池より泉水のほうがいいですか?

関口 良い鯉だったらそのほうがいいと個人的には思います。今は野池は何があるかわからないですからね。特にこのへんは夕立とか大雨が結構あるところで、雷もすごいんですよ。全部野池に入れていて、流れちゃったなんてことになったら終わりですから。だからとりあえず今ある生簀でリスク分散を……。やりたいことはいっぱいあるけど、工夫をしながら対応している感じです。

4号ハウス池
60トン池×2の5号ハウス。他の池より水流を強めにして運動量を増やし、大きく育てることを目的としている
エアーリフトによる底水排水。タイマーで作動

(後編に続く)