―一般的な鱗に比べ荒鱗には銀が乗りにくいとかはありますか?

五十嵐 背中には普通に乗るんですが、肩口の鱗にはすごく銀が乗りづらいんですよ。なので、そこまでしっかり銀を入れられるような親鯉をあちこち探して何件か見つけて、とにかく体と銀を重視して導入したのがからし系と落葉系の銀鱗でした。

―そうするとゴジラの親は、からし系と落葉系になるわけですか。

五十嵐 からし系の銀鱗は1年しか採れなくて、2年目は落葉系の銀鱗しかいなかったから、それに自家産のドイツからしをかけて作ったのが初代ゴジラになります。

―落葉系とからし鯉から、ああいった真っ黒な鯉ができるんですね。

五十嵐 からし鯉って一般的に黄色として捉えられるけど、黄鯉とは色味が違って下地に空鯉のようなねずみ色をもっているから、それが重なり合って深い色合いのマスタード色になるわけです。だから、からし鯉を使って何かを作ろうとすると、黒い鯉がいっぱい出るんです。

―なるほど。

御三家にまじり泳ぐ多彩な荒鱗鯉

五十嵐 いろいろなものを組み合わせて商品作りや親作りをしていると、品種の特性が見えてくるというか違う品種同士をかけたときにどうなりやすいか、だいたい見当がつくようになりましたね。

―ゴジラを世に出したとき、お客さんからの反応はいかがでしたか。

五十嵐 荒鱗の大きさや並び、銀の出方とか一般的にみなさんがゴジラと言ってわかってくれるのは、2019年秋の新潟オークションに出した鯉になりますね。この鯉は荒鱗のバランスがとれ、インパクトも強かったのでお客さんからの反応はすごく良かったです。

―銀が乗ると無地ものでも派手に見えますね。荒鱗の鯉を作るにあたってやはり銀鱗は欠かせないですか。

五十嵐 そうですね。銀鱗がないとどうしても売りづらいので。それに、例えばドイツ山吹に銀が乗っていても地体が光っているから光をあてて初めて銀鱗が目立つので、銀鱗に他の色味が無いとまったくもって銀が見立たないんですよ。逆に鱗との境目が見えにくいから汚く見えてしまう。荒鱗が汚いと言われる所以は鱗の存在感というか、ただ模様を邪魔するとか鱗単体の魅力がないとか派手さがないとかなんですよ。そういった点で、青木さんの黄竜は黄色の地体に黒い鱗が入ってるから目立つのであって、黄色い地体に同系色の荒鱗が入ってもたぶん目立ちにくいですよ。

2021年秋 新潟オークション出品
2020年秋 新潟オークション出品

五十嵐養鯉場作出の黄色系の荒鱗鯉『黄竜』(こうりゅう)

五十嵐養鯉場・五十嵐俊將氏に聞く

変わり鯉は多角的なものの見方に

―今年行われた第53回全日本総合品評会で、㈲AO・あおきやさんの「黄竜(愛称・キングギドラ)」が優勝という評価がされたことについてはどう考えますか。

五十嵐 捉え方が変わったのかもしれないし、模様で見る錦鯉がある程度出尽くした感があるのではないかと思うんですよね。例えば模様の中にハートがついているだとか、ちょっと視点の違う鯉がオークションで高値がついたりして、評価されているというよりかは、ちょっと離れた視点で鯉が見られているというか。

―様々な変わり鯉が作出されるなかで、変わり鯉に対する見方も変化してきていると。

五十嵐 確かにあの鯉は地体が黄色で荒鱗が黒っぽいからコントラストもはっきりしているし、鱗並だってある程度左右均等できれいに並んでいますよね。

 今回のような結果はすごくいいことだとは思うのですが、それを今後教科書的に規定してしまってはつまらないし、生産者や業者がこうでなくてはだめと固めてしまうと『幅』がなくなってしまうから、あれが良くて他はだめという見方ではなく、こういうのもきれいだし、こういうのもきれいみたいな。

(有)AO・あおきや作出の『黄竜』