五十嵐養鯉場・五十嵐俊將氏に聞く

無地と模様でバリエーションを

―親を組み合わせる際に、荒鱗同士だと鱗が強く出すぎてしまうとかありますか。

五十嵐 純粋に荒鱗の鯉を作ろうと思えばそれ同士でもいいと思いますし、うちでもたまにそういった組み合わせをします。ただそれが銀鱗の場合だと、荒鱗同士だと肩口の銀鱗が固定されづらくなるので銀が乗りにくい気はします。なので、銀鱗を強く乗せたいときは、きれいに銀が吹いた和鯉と荒鱗の鯉、もしくはドイツ鯉をもってきます。

―成長による荒鱗の並びの変化はあるんでしょうか?

五十嵐 ほとんど変わらないです。配置された場所はほぼ固定ですね。一番選別の時によく見るとだいたい鱗はわかるので、側線の鱗が抜けているものは成長しても抜けているし、鱗が後から出てくるということはありません。なのでそのときに鱗のタイプが分かるというか、大きい鱗が出るのか小さいのが全体に散らばるのか、肩口から並びよく出るのかとか。

―荒鱗と一口に言っても様々なバリエーションがあると思いますが、親鯉の組み合わせによって変わるわけですよね。

五十嵐 だいぶ変わりますね。理想は肩口の荒鱗を大きく出して、銀をしっかり乗せたいんですが、組み合わせによっては全然出ないんですよ。出たとしても俗に言う並びの悪い荒鱗だったり、大きい鱗がガチャガチャ並んでいたりと、たかが荒鱗と言われますがいざ作ろうとすると、きれいで大きい鱗は難しい。いくらかけあわせても、品種間の組み合わせがマッチした時にしか出ないので、3年ぐらいいろいろな品種をあわせてきて、表現の具合がわかってきたので、鱗の出方がこうだろうと考えて品種を選んでかけたら、多少なり思惑通りに出てくれたので、ある程度は狙って作れるのではないかとは思いますね。

―今後はゴジラや落葉系統以外のバリエーションも増やして?

五十嵐 やっぱり色合いのバラエティは必要で、ゴジラが人気あるからと言ってそればっかりでもだめなので、様々な血筋を入れながらいろいろな色を出せるように。特に当歳のミックスなんかは、色彩がある程度バランスとれて全体の印象がきれいになるようにしないと、なかなか買ってもらえないですから。


色彩・鱗の表現が様々な荒鱗鯉

九紋竜
黄金落葉系
落葉
茶鯉  2020年春 新潟オークション出品

―無地ものは荒鱗が映えますが、模様との相性はいかがですか。

五十嵐 張り分けとかドイツ孔雀とか、模様ものには大きな鱗は邪魔になってしまうので、模様を乗せるとなると秋翠のような背中に並んだ鬼鱗で銀が乗ったものであったり、肩口に集中して並んでいる鱗が松葉のように黒くなるとか、そうすれば模様を邪魔しないので、その使い分けが必要です。

 銀鱗も今はゴジラ系統を主軸に全体にしっかりと銀が乗る種類と、背中にしか銀が乗らないような系統、おおまかに2タイプの系統があります。

―ドイツ鯉は鱗の少ない「革鯉」と大きな鱗の「鏡鯉」に分けられますが、かけあわせにはどちらのタイプも使って?

五十嵐 自分が見てきた中での話ですけど、ドイツ鯉自体は品評会基準で見れば革鯉のほうがいいのかもしれないですが、体を見たときには劣等種というか絶対に腹がだれてしまうし、大きくならないんですよね。

―たしかにドイツ鯉は体型が崩れやすいと聞きます。

五十嵐 例えば1mの革鯉のメスに80㎝の革鯉のオスをかけても、その子供が親より大きくなるかというと、ならないんですよね。そこで何が大きくするか考えたときに、小西さん(㈱小西養鯉場)のドイツからしとかは、必ず側線とか肩に鱗があるんですよ。多分あれが大きくなる要因で、鱗があって初めて骨と体を支えているというか、鎧みたいにサポートしているから、ああやって体がついてくるんだと思います。

―なるほど。面白いですね。

五十嵐 たぶんドイツの革鯉で大きくなったものって和鯉とドイツ鯉の一代目の子供で、鱗がないけど鱗があったときの名残をもったまま大きくなっているわけであって、革鯉としての遺伝子がしっかりと固まってしまうと、大きくならないんだと思います。ドイツ鯉自体は、もともと餌食いがよくて大きくなるというので錦鯉に導入されたんですが、今ではそれが全くの逆になってドイツ鯉は大きくならないというイメージじゃないですか。革鯉のほうがもちろんきれいなので、みんな革鯉に寄せて作ってきたから近親というのもあるかもしれないが、近親云々より『鱗』が重要だと思うんです。

―品種の固定と近親交配というのは切っても切り離せない関係ですが。

五十嵐 そうですね。なのでバリエーションや血筋が増やせたり、品種としてこれでいいと思えば固定化を図ってやりますが、まだ先が見えない状況でどの色彩が一番効率よく出現するか、商品としてどれが一番いいかはまだ模索中なので、ある程度そこの固定が見えてくれば、多分できたもの同士のかけあわせで固定化をしていくと思います。

 一方で、銀鱗の筋は外せない部分があって、どうしてもそれを入れると血が強くて近親に偏り気味になるから、それをどう混ぜて薄めていって調合してみたいなところはありますけど。

―今後のさらなる荒鱗の改良とバリエーション、品評会での活躍も期待したいです。

五十嵐 鱗目とか覆輪の魅力を楽しんでもらえるようなお客さんの層ができてくれれば面白いだろうなとは思いますね。そのために、一点物の変わり鯉をいかに固定できるかが生産者として重要な役割なので、あの鯉がほしいと言われた時にその鯉はいないけど、こっちはいるよみたいな、層を厚くして対応できるようにしていきたいと思います。

(後編に続く)