新時代の美は大鱗(おおごけ)にあり
うろこで遊ぶ『荒鱗鯉』【後編】
たかが「鱗」、されど「鱗」。変わり鯉の中でも特に好みが分かれるであろう「荒鱗」を纏う品種は、一般的には選別で弾かれるが、近年新潟を中心として新たな美の観点として浸透しつつある。
それが顕著になったのは、今年行われた第53回全日本総合品評会だろう。小千谷市・㈲AO・あおきや作出の「黄竜」が、優勝という評価を得たのである。これは錦鯉の新時代到来とも言えるのではないだろうか。
そんな注目が集まる「荒鱗鯉」を副産物としてではなく、ひとつの品種として作っている生産者3名に話を聞いた。
前編では長岡市の五十嵐養鯉場、後編では小千谷市の㈲AO・あおきやと魚沼市の丸仙小林養鯉場の取り組みを紹介していく。
㈲AO・あおきや・青木元義氏に聞く
黄色い竜『キングギドラ』誕生
―今年1月に行われた第53回全日本総合錦鯉品評会で注目された「黄竜」。本誌4月号のいっぴん鯉で作出について少し取り上げましたが、改めてどういった経緯でこのような鯉ができたのか教えてください。
青木 もともとうちでは昔から張り分け黄金を作っていて、より濃い黄色を目指して改良していたんですけど、その過程で荒鱗をもった鯉が出てきた時になんとなくこういったタイプも面白いと思ったんです。それで張り分けの荒鱗をちょっと採ってみようと始めました。
―本格的に作り始めたのはいつぐらいから?
青木 全日本で優勝した鯉が2歳なので2年前ぐらいからですかね。それ以前にも、荒鱗というか中途半端なものはそこそこ出ていたんですけど、見れる荒鱗鯉としてはそれぐらいからになります。一般的に荒鱗は無駄鱗とか言われて選別ではじかれますけど、いざ生産してみると全体を覆うのってなかなか難しくて。それに、一口に荒鱗といっても鱗の大きさとか出方は様々だから、きれいに出るのはなかなか少ないです。ああいった品評会に出たような鯉がいっぱいできればいいんだけど、正直ほんの数本しかいないですから。

㈲AO.あおきや作出の『黄竜』(愛称:キングギドラ)

40部 変わり鯉/Benedict Campos
取扱/成田養魚園㈱ 取次/Tategoi House


―親鯉にはどういった鯉を使っているんでしょうか。
青木 今まで写真①のメスを使って普通の張り分け黄金を作っていて、見てもらったら分かるようにほとんど鱗をもっていないんですよね。ですが、先ほど言ったように荒鱗を少しもった鯉が生まれてくるんですよ。このメス親の親はそういったことはなかったんですけど。それで、そのメスから荒鱗のオス(写真③)ができて、そのオスを組み合わせてできたのが今回の黄竜になります。
―荒鱗を出すとなると、オスにそういった鯉をもってきたほうがいいということですか?
青木 というよりかは、うちのお客さんで荒鱗の鯉が好きな方もいれば、正統派の鱗の少ない鯉が好きな方もいるので、うちでは荒鱗タイプと正統派タイプの2種類を作っているんです。オス次第でどっちも出すことができるから、オスのタイプで荒鱗を出すか出さないかを分けています。
―なるほど。オスを使い分けることで2種類の表現方法が。
青木 正統派のオスをかける場合、メスまで荒鱗だと正統派のほうに影響が出てしまうので、基本的にはメス親には荒鱗タイプでないものを使うようにしています。メスには荒鱗のオスもかけるけど正統派のオスもかけるから、両方出せるようにしたいんです。それにそんなに荒鱗の鯉を作っても今度売れないと困るのでね。
―一般的にドイツ鯉を採っていれば荒鱗自体は出るわけですが、しっかりとした荒鱗を目指すとなると、やはりかけあわせが重要になってくるわけですか。
青木 そうですね。きれいかどうかは別として、ドイツ鯉に和鯉をかければ荒鱗はかなり出ます。例えばドイツ五色を作るときに、和鯉の五色にドイツ紅白をかけるところからスタートするんですけど、和鯉をかけるとどうしても側線のところまで鱗が出てしまうので、今度はそういった無駄な鱗をなくしていく作業になるわけです。何度も改良し世代を重ねるとだんだん無駄な鱗がなくなって、ようやく親として使えると。それでも改良の途中で血が濃くなりすぎれば、もう一回和鯉をかけて血を離して組み合わせるとかもあるので、一世代ですぐにできるわけではないから、2回3回と違う工程でアタックしていく必要があります。
―新品種を作るということは、そういった努力と我慢が必要なわけですね。
青木 黄竜もどのタイミングで和鯉をかけたか明確ではないですが、いくつもの段階を踏んで作っています。



―黄竜は張り分け黄金からの派生になりますが、模様のつき方はいかがですか。
青木 今年の春の新潟オークションに出した黄竜(写真④)は正統派タイプですけど、こういった感じで模様がつきますし、特にこの鯉はしっかりとした濃い黄色なので、白地とのコントラストがはっきりして際立っていますよね。これが白っぽい黄色になってしまうと、模様がついても白地との境界線が出にくくぼやけてしまうので、模様もそうですが濃い黄色を目指して改良をしています。
―特に黄色という色味は安定しないと聞きます。
青木 そうですね。すごく難しいです。オレンジっぽくなってしまったり逆に薄くなってしまったり。今使っているメス(写真①)が薄い黄色なので、それを補うためにオレンジっぽい色のオス(写真③)を使って、濃いのが出たときには残して、それをまたかけてを繰り返してだんだん濃くしていって。
あるいは、菊水の血を入れたりもして、菊水は赤に近い色味だから、かけわあせを繰り返して徐々にオレンジから黄色にしたり荒鱗と同じで段階を踏んで作ってきたんです。
―黄竜はどれくらいの腹数採っているんですか。
青木 荒鱗タイプが一腹、正統派の張り分けタイプが一腹です。理想は半分以上が正統派で、残りの何割かが荒鱗のような変わったものになるように。
―かけあわせはオスメス一対一で?
青木 うちは自然産卵で採っているので、メス一本に対して荒鱗とそうでないオスの2タイプを。予備でオスを3本にしたりもしますが、正統派を2本、荒鱗を1本みたいな感じです。一応メスも荒鱗タイプ(写真②)がいるので、組み合わせ的には4パターンできます。
―荒鱗鯉の選別は、他の鯉と比べて違うところなどはありますか?
青木 鱗がわりとそのまま残るので選別はしやすいと思います。ただ、荒鱗自体が黒く色づくかは年数が経たないとわからないです。