自家製の炊き餌は野池に不可欠
良質の「いりこ」でよく食べる

―野池飼育が別府さんの強みという話がありましたけど、それは池の環境以外にも、別府さんならではの飼育方法などが?
隆治 ならではというほどではないですけど、父のレシピで何十年も前から練り餌をやっています。これがよく食べるんですよ。
―秘伝のブレンドで?
隆治 そこまでのものじゃないけど(笑)、麦といりこ、つまり煮干しですよね。それですごく味が出るんです。
―阪井さんのところでは、粉砕したペレットをベースに、サツマイモや麦などを混ぜて練り餌を作っているそうですが、別府さんは既製の飼料は入れてないんですか?
隆治 マッシュなどは添加はしますよ。でも基本は麦といりこです。それも粉じゃなくて、そのままを炊いて柔らかくしています。麦も圧ぺん麦(あっぺん=蒸気加熱した大麦。消化吸収にすぐれる)を使って。
―コスト的にはどうなんですか?
隆治 だいぶ安いです。いりこは廃棄するものをもらってくるので。食用のいりこを作るとき、サイズが小さいやつとか切れたやつとか、そういうロスが出るのでもらってくるんです。
―へぇ……それは地の利というか、瀬戸内ならではかもしれないですね。工場としては捨てるにもお金がかかるから、それならタダでもいいから持っていってというような。
隆治 そうですね。ものすごい量が出るみたいなので。
―廃棄物とはいえ、それが手に入るのは大きいですね。
隆治 すごく新鮮だし、できてすぐのやつなので。
―いりこの割合はかなり多いんですか?
隆治 麦と半々ぐらいじゃないですかね。同じぐらいの量が入ってると思います。
―いりこを買って作ろうと思ったらかなりコストがかかりそうですから、そこまで贅沢なブレンドはよそではないかもしれませんね。野池はその手作り餌だけなんですか?
隆治 給餌器で普通の餌もやりますよ。それプラス炊き餌(練り餌)ということです。

自家製の餌に使う大量のいりこ(煮干し)

―炊き餌だけをやっていればいいというわけではない?
隆治 それはもちろん。配合飼料は完成された餌で食いもいいし。さらに食わせるために炊き餌をやるという感じですね。だから両方必要です。
―量的にはどっちのほうが多いんですか。
隆治 量で言ったら炊き餌のほうが断然多いと思います。炊き餌はものすごい量を池に入れますけど、次の日にちゃんとなくなってますよ。うちの野池飼育で鯉が良くなるのは炊き餌のおかげだと思います。
 魚は満腹近くになったときでも、柔らかいものは食べるんですよ。ずっと固形物だと疲れるのか……。だから、最後にもっと食わせようと思ったら、柔らかいもののほうがいいと思います。炊き餌は柔らかいし、うちのは高カロリーじゃないので、いっぱい食べてももたれないんじゃないかな。
―その餌やりはすべて手作業になるわけですよね。それだけの価値がある?
隆治 あります。それをやらないとうちの野池にならないんです。
―炊いて柔らかくしたものを、ダンゴのようにして撒いていくんですか。
隆治 でっかい塊ですね。麦といりこを混ぜただけだとドロドロですぐ溶けちゃうから、パン粉とかマッシュをつなぎにしてある程度固めて。それを野池に何個も落として、寄ってきた鯉が半日とか1日かけて食っている感じです。
―それをお父さんの頃からずっとやってるんですよね。
隆治 昔から機械(練り器)はあった覚えがあるので、僕らが小さいときは金魚などに炊き餌をやってたんじゃないですかね。販売店があった頃は、街中の稚魚池で金魚を飼ってたので。弥富から仕入れてきた金魚をいったん稚魚池に放して、そこで餌をやって太らせて販売に出してましたから、そこで炊き餌を作ってたんじゃないかな。