新潟大学「錦鯉学センター」設立

多角的な研究で錦鯉の魅力発信と養鯉業の課題解決を視野に。

 新潟大学では錦鯉についての知見を広め産業の振興につなげようと昨年8月、「錦鯉学センター」が設立された。農学部や理学部、工学部など異なる分野の研究者が参加し、錦鯉の色彩や模様が生まれるメカニズムの解明、養鯉業が抱える課題解決などを目的としている。 長谷川英夫センター長をはじめ、藤村衡至(理学部)、坂田寧代(農学部)、山崎達也(工学部)の3氏の研究者ほか、今年度から錦鯉の研究に携わる2名の学生に話を聞いた。

―昨年8月、新潟大学に「錦鯉学センター」が設立されメディアで取り上げられるなど注目を集めましたが、センター設立の経緯や概要について教えて下さい。

長谷川英夫 2022年に、日本観賞魚振興事業協同組合によって錦鯉が国魚に認定され、11月には新潟市で「世界錦鯉サミット」が開催されました。さらに、農林水産省から農林水産物輸出拡大のための「輸出重点品目」に追加。そして2023年3月には、新潟県の推進ブランド8品目の中に錦鯉が選定されました。

―近年、錦鯉がニュースで取り上げられる場面が多くなりましたね。

錦鯉学センターの代表を務める長谷川英夫教授

長谷川 新潟県だけではなく全国的に関心が高まっているなかで、錦鯉が生まれた県の総合大学である新潟大学として、新潟の特色を表している養鯉業に貢献したいという思いがありました。

 学内には様々な分野の研究者がいますので、豊かな色彩を持ち、泳ぐ宝石と言われる錦鯉をそれぞれの観点から研究し、未解明なところを含めて明らかにしていく。そうすることで、錦鯉そのものの魅力であったり地域の魅力というものを高めていけるのではないかと考え、新潟大学錦鯉学センターを設立しました。

―錦鯉に特化した研究を行う大学は国内でもめずらしいですが、どのような取り組みを。

長谷川 まずは養鯉業者の皆様が抱える課題を洗い出し、センターのメンバーでそれぞれの知見を生かした取り組み。具体的にはそれぞれの先生から説明をしていきますが、異なる分野の研究者が集まっていることが一番の強みでもあります。「錦鯉学」ということで、250年ほど前に新潟県を発祥として始まった養鯉業というものを、学問として体系づけ構築していくことが重要であると考えます。

―様々な分野の研究者が参加していますが、それぞれの専攻分野とセンターにおける錦鯉との関わり方についてお聞きしたいと思います。まずは農学部の坂田先生お願いします。

山古志で活動を行う農学部の坂田寧代准教授

坂田寧代 私はこの2年間研究のために山古志に滞在し、闘牛のオーナーとして地域に関わりながら「山古志木籠ふるさと会」という地域活性化に携わる団体についての研究や活動をしてきました。

 今年は中越地震から20年目ということで、5月には全国闘牛サミットが長岡市で開催されます。

―闘牛を通じて山古志と長年関わってきたなかで錦鯉との関わりも?

坂田 新潟大学ではそのような地域活性化に関するコミュニティーの話をすることが多いのですが、以前勤めていた石川県立大学では養鯉池の地震による被災と復旧、歴史的な立地変遷というものの研究を行っていました。

 今回、錦鯉学センターに参画するにあたりそういった養鯉池に関する研究を発展させ、センター内での役割として現地での聞き取りを中心に、いかに風土と錦鯉が密接に関係しているかを調査していきたいと考えています。

 長谷川先生は同じ農学部ですが、天水池の水質や土質といったものを分析していただけるとのことなので、私は観賞魚としての錦鯉を言語化したり、学生が参加する養鯉業インターンシップを通じた後継者の育成も進めていけたらと思います。

―ありがとうございます。続いて理学部の藤村先生よろしくおねがいします。

理学部で生物学に携わる藤村衡至助教

藤村衡至 私は生物学的な研究として、基本的には熱帯魚を使った魚の発生と進化に関する研究をしています。約5万種いると言われる脊椎動物のなかで約半数が水中に適応しているのですが、研究では祖先的な魚から、より発達した魚まで幅広くカバーしながら体のでき方を調べています。

 昨年、センター設立にあたり長谷川先生から声をかけてもらいましたが、それまで錦鯉を研究室の中で飼うというのはなかなか難しいというイメージでした。

錦鯉の基礎研究を行うために新設された研究室