鯉屋で「本物の鯉」見てハマる
ガレージに水槽がどんどん増え

 本格的に錦鯉の飼育を始めたのは3年ほど前からだが、自宅の庭には齋藤さんの父が作った池が幼少の頃からあり、そこに金魚や鯉などを泳がせていたことから、魚にはなじみがあったようだ。
 「その後、結婚してから何年後だったか……アロワナを飼い始めたんですよ。それで魚の飼育の面白さを知りました」
 子供が誕生してからは再び魚から離れる期間があったものの、本格飼育を始める少し前から、ガレージ内の壁に埋め込んだ90㎝水槽で、ペットショップで購入した金魚や鯉を飼い始めるようになる。
 「その頃はまだ全然知識がなかったので、よく死なせていたんです。死んだら新しい魚を足すの繰り返しで。今思えば、眠りにかけてない魚を買ってきてすぐに入れていたり、水の作り方もわからなかったから具合が悪くなるのは当たり前なんですが、当時はどうして死ぬのかわからなくて、ネットで調べたりしていたんですね。そうしたら、すごく綺麗な錦鯉の写真がいろいろ出てくるわけですよ。自分がペットショップで買ってきた鯉とは全然別物で『何だこれは』って」
 すぐに欲しくなった齋藤さんはさっそく近隣の鯉屋を調べ、福島県内唯一の振興会員業者である藤田養魚に電話。
 「初めてなのに『ぜひ遊びに来てください』と言ってくれて。そこから加速しましたね。ペットショップでは千円ぐらいの鯉を買ってたんですが、藤田さんのところの500円の鯉のほうが断然綺麗なんですよ」
 専門店で本物の錦鯉を知り、飼育方法を学んだ齋藤さん。すぐに水槽1台では満足できなくなり、壁埋め込みの水槽をもう1台、加えて120㎝水槽も購入。2024年秋の東北・北海道大会で成魚菜の花賞を受賞した秋翠は、初期に購入して90㎝水槽で飼育していた鯉だという。さらに、大きく育ててみたいとの思いから、漬物工場で使われていた1トンのFRP容器も手に入れた。
 「結構のめり込むタイプなので(笑)、それも1台では飽き足りなくなって2台に……最終的には車を停められないほどガレージの中が水槽だらけになってしまって(笑)。それからハウスに移していきました。その過程で品評会のことを知って、鯉の友達も増えて」

第48回東北・北海道総合錦鯉品評会
成魚の部菜の花賞(藤田養魚作出)
第12回東北・北海道若鯉品評会
50部総合優勝(藤田養魚作出)
第11回国際錦鯉幼魚品評会
12部フェニックス賞(藤田養魚作出)

 ハウス内に池を掘るという選択肢も頭の片隅にあり、藤田養魚のハウス池の構造について藤田さんに教わったこともあったという。しかし、高いハードルとなる予算の問題や、家族の難色などもあり断念。また、鯉熱がヒートアップしている齋藤さんにとっては、池作りにかける時間すらも惜しく「大きな鯉が飼える池をすぐにでも作りたかった」ため、フレームプールを選択した。
 「買ったのが2年ぐらい前ですかね。最初は単管パイプを組んでシートで作ろうかなとも考えたんですけど、それも結構材料費がかかるので、ネットでいろいろ調べているうちにたまたまINTEXで飼っている人を見て。結果的にはこれでよかったと思います。壊れても安く直せますし、大きな池を作ろうとすると水道代もバカにならないですから」
 フレームプール最大の利点は安価であること。そして一定の耐久性を備え、大きな欠点はなさそうに思えるが、鯉を飼ううえで物足りなく感じる部分がないわけではない。購入前には十分に検討したほうがいいだろう。
 まずは底水排水ができないという点。排水口は底部から10㎝ほど上の側面にあるため、底に沈んだ汚物を残さず排出することは難しい。よって、汚れを効果的に濾過槽に導く水の動きを作る必要がありそうだ。
 そしてもう一つは水温の問題。
 「シートなので、気温がダイレクトに伝わるんです。だから冬はストーブを焚いているんですけど、切ったら一気に5〜6℃は下がります。INTEXで飼うんだったら寒さ対策は必要ですね。今思えば、スタイロフォームを敷いてからプールを置けばよかったかなと思います」
 それでも、二重構造ハウスや少ないながらも地下水を使っている効果もあり、冬の最低水温は13℃程度で軽めの給餌は可能。欠点をいかにカバーするかが、フレームプール使用におけるポイントになりそうだ。
 「池の代用になるものって探せば結構あるんですよ。今直して使おうかなと思ってるのは、最近もらってきた子供用のFRPプール……幼稚園で使われていたやつですね」

鯉を通じて広がった友人の輪
品評会参加も楽しみに

 フェニックス賞の変わり鯉を入手したのは、幼魚品評会前の3月の売り出し。齋藤さんは前年秋から目をつけていたという。
 「『何だこの鯉は!』って見た瞬間衝撃が走って。他にもいろいろいるなかで、これが一番だと思いました。この売り出しはくじ引きで鯉を選ぶ順番を決めるんですけど、運良く最初のほうだったので、他にも狙っている人がいる中で無事買うことができて。国際幼魚で賞を取ったあとはうちの水槽で飼って、今年の全日本では優勝でした。品評会のたびに雰囲気が変わる鯉なので面白いです。今は落葉みたいになってます」
 安価な飼育容器の発見、そして飼育2年目にして全国大会で大賞を受賞したことで齋藤さんの鯉好きが加速したことは間違いないが、その背景には藤田養魚の存在が大きいと話す。
 「藤田さんのところでいろんな人と友達になれましたし、ベテランの方はいろいろ教えてくれて。お客さんはみんないい人で、自分にとっては癒やしの場所、『アナザースカイ』(第二の故郷)です」
 3年の経験と周囲の助言で飼育は軌道に乗り、大きなトラブルはほとんどなくなった。品評会も東北北海道地区を皮切りに、国際幼魚、そして今年は全日本にも初めて出品。楽しみの幅をどんどん広げている。
 「鯉がいないと生きていけない」とまで言い切る齋藤さん。仕事を終えて帰宅し、無心で鯉を眺めている時間は何ものにも代えがたいという。「欲を言えば」野池や、ハウスをもう一つ作りたいという希望はある。しかし、まずは今の環境で存分に楽しむことが最優先。
 「大きさは関係なく、自分が気に入った鯉をこれからも飼いたい」という齋藤さん。錦鯉を語るその表情は、羨ましく思えるほど充実感に満ちていた。