広島の鯉を中心にラインナップ
立て鯉志向で次世代の発掘へ
―錦鯉はどこから仕入れることが多いですか?
鳥居 小西さんで働かせてもらったこともあり、仲の良い生産者さんが広島に多くいるので、基本的には広島の鯉を仕入れています。今ストックしている鯉で一番多いのが大山さん(大山養魚場)の鯉でして、大山さんはちょっとマニアックなんですが、鯉の見方が私と共通するところがありまして。最初に大山さんの昭和を見たときに白地がものすごくきれいで「この昭和を扱ってみたい」と思ったのが始まりです。
―ストックしている鯉を見ると昭和が大半を占めていますね。
鳥居 今は8割ぐらい昭和になっています。私は昭和と孔雀が好きなので、一時「孔雀と昭和の専門店」にしようか考えたこともあって、他の業者さんから「いろいろな品種がいるからお客さんは買ってくれるんだよ」とアドバイスされたものの、まだやってみたいという気持ちは心の片隅に残っています(笑)
―孔雀はどこの生産者をメインに?
鳥居 昔から広島の三次にある山田養魚場さんの孔雀が大好きでして、小西さんに勤めた1年目に、全日本で種別日本一を取った山田さんの孔雀(写真①)を親にして採ったんですけど、その子がものすごくきれいだったんです。

―山田孔雀は銘鯉として孔雀を代表する系統になっていますからね。
鳥居 そうですね。なので現在はその系統で作っている小西さんを中心に、面迫さん(㈲面迫養鯉場)や竹田さん(竹田養鯉場)の3つの生産者から孔雀は仕入れるようにしています。
―孔雀は光りものの中でも特に人気の品種ですが、光りや模様、体型などから作るのが大変と言われますよね。
鳥居 そもそも孔雀は系統が少ないので、山田さん自身も血が濃くなることに悩んでいましたし、竹田さんも掛け合わせる親がいないと……。孔雀を作っている方で、そこの壁にぶつかっている人は多いと思います。ただ、この20年ぐらいで魚は確実に大きくなりましたし、間違いなくきれいになりました。
―一番改良が進んだ品種と言えるかもしれませんね。ところで販売している鯉のサイズは小さい鯉が中心ですか?
鳥居 当歳の小ぶりなところを仕入れのメインにしているので、大体15㎝~25㎝ぐらいになります。今の国内の状況だと、サイズが大きくなるほど買い手が少なくなるので、なかなか売りにくいんですよね。とはいえ、個人的には自分でそれなりのサイズに立てた鯉も売っていきたいと考えているので、そういうサイズも数本持ちつつできればいいかなと思っています。


―販売価格は大体いくらぐらいを目安に?
鳥居 時期にもよりますが3000円から3万円ぐらいです。仕入れてきても途中で納得がいかない鯉は500円や1000円にしたりもしますが、そればかり扱っていても商売にならないので、ある程度高価格帯の魚にもシフトしていかないといけないとは感じています。
―高価格帯となると、やはり鳥居さんの目で仕入れてきた鯉が好きだという愛好家さんを増やしていくことが大事になりますね。
鳥居 そうですね。私としてはそこが狙い所の一つだと思っています。ただ、それは高い鯉だけでなく安い鯉でも同じで、極力自分の目で見て買ってきたいんです。「そんなことやっていて商売になるの」と言われることもあって、現実的にはそうなんでしょうけど、どこかで「自分の色」を出していかないといけないと思っています。
―「鳥居さんの色」というと、どんなところにありますか?
鳥居 やっぱり「立て鯉」にあると思います。自分は愛好家の時にそこまで裕福ではなかったので、一発逆転を狙うには良くなりそうな魚を選ぶことが大事だったんですよね。自分で選んで買って、それを飼育して良くする。そういう見方ばかりしてきましたし、生産業務を経験したことでより一層そういった鯉を選ぶようになりました。
―立て鯉のほうが夢がありますからね。
鳥居 ある生産者さんが「業者さんでも立て鯉を見られない人が増えてきた」と言っていたんですよね。現状を見て良し悪しを判断するだけで、この鯉が今後良くなるのか、それとも崩れていくのかを見られないと。それは私も鯉を売っていて感じていて、多分ネットの影響もあると思うんですけど、模様のいい鯉は質に関係なく売れるんです。

愛好家時代にいろいろな生産者で鯉を買っていましたが、ある時から売り出しに並ぶ魚が完成された魚ばかりになってしまったんですよね。
―愛好家がそういった鯉をより好むようになったわけですか。
鳥居 というよりかは、業者の売り方がそうなってしまったというのがあると思うんです。以前の売り出しでは価格が安い池から良くなりそうな鯉、この上のクラスを逆転するような鯉を探す、まさに宝探しみたいで楽しみでした。前にお客さんが「うちに持って帰って飼育するときれいじゃなくなってしまう」とぼそっと言っているのを聞いて、それでは飼っていて楽しくないだろうと思って。やっぱり自分の池に持ってきて良くなったというのが、飼育の楽しみですから。
―変化が楽しめて長く飼える鯉ですね。
鳥居 品評会に熱を入れてやっているいる方であれば完成された鯉のほうが即戦力ですし、そういう楽しみ方はもちろん良いと思います。ただ、それをやるにはお金がかかりますから、みんながみんなできるわけではないです。やっぱり多くの人に長く楽しんでもらおうと考えた時には、立て鯉的な見方を業者さんのほうから伝えていかなければいけないと感じています。
―なるほど。
鳥居 ただ、自分がいいと思う鯉ばかり買ってしまうと売れ残ってしまうので、仕入れる時は逆に「すぐに売れる鯉、すぐに売れる鯉」と自分に言い聞かせながら選ぶようにしています(笑)

(並木養魚場作出/山田孔雀系統)
品評会受賞後、新潟の複数の生産者で親鯉として活躍

全体総合優勝/60超部
(㈱上野養魚場作出)
―商売を考えると自分の思いだけではやっていけないわけですね。
鳥居 そうなんです。なのでうちに来てくれたお客さんには、お客さんが選んだ魚のほかに1、2匹上げてみて「これはこういうふうになっていくんじゃないかな」と話すこともあって、そうやっていけばお客さんも「そういう見方があるんだ」と思ってくれるのかなと。
今は国内がしぼんでしまっていますが、新たな芽は出ていると思っています。若い世代でやっている人は、鯉屋さんが思っている以上にいるんですよね。愛知の遼河鯉庵さんの反応を見ても「若い人が結構来てるよね」とか、他の業者さんからもそういう話を聞いたりも。インスタグラムをやっていても、若い人や始めたばかりの人が声をかけてくださり、鯉を買ってくれたりもするんです。
―それは県内の人が多いんですか?
鳥居 県内もいれば県外の人もいますが、実感としては県内の人が多いです。近ければ直接来てくれますし。
―やはり鯉屋さんが近くにあれば、直接行ってみたくなりますからね。
鳥居 そういったのがある一方で、品評会はなかなか若い人が増えていないように感じます。みなさん最初は数百円、数千円の鯉から始めるわけで、そういった人をもう少しうまく育てて数万円の魚が買えるような環境を国内の業界全体で考えていく必要があると思っています。