長寿命にこだわった専用設計

省電力ながら大流量も実現

―陸上ポンプに対して、水中ポンプにはどのような特徴がありますか。
松阪 まずは、水中ですので動作音が出にくいというメリットがあります。そして配管が比較的簡単です。ポンプから吐出側配管だけ伸ばしてやればOKですので、お使いいただきやすいと思います。
 また、ドカポンの場合は「キャンドモーター」という特殊なモーターを使っており、寿命が非常に長くなっています。このタイプのモーターを使っている水中ポンプはあまり多くありません。
―それはどのようなものなんでしょうか。
松阪 モーター自体を完全に缶詰状にして、水が中に入り得ない構造にしているのがキャンドモーターです。電気の効率という面では、構造上若干犠牲になるところはあるのですが、それよりもモーターに水が入らないメリットのほうが上回ると思っています。もともとキャンドモーターというのは、何百mもあるような深い井戸に入れるポンプのために開発されたもので、ドカポンに使っているキャンドモーターは、それらの技術を取り入れた養殖専用の高強度モーターです。

―同じキャンドモーターと呼ばれるものであっても、ドカポンのキャンドモーターはちょっとモノが違うと。
松阪 汎用品のキャンドモーターではドカポンの用途としては不十分という判断から、専用品を採用しています。
 そしてもう一つ、ドカポンは「軸流ポンプ」という原理を採用しています。これは揚程、つまり汲み上げられる水の高さはそれほど高くないんですが、少ない動力で大量の水を動かすという能力に長けています。陸上ポンプで軸流ポンプ方式を採用しようとすると、ポンプ自体が比較的大きなものになるとか、水の流れの抵抗をどうやって減らすかといった課題が出てくるので、そこにも水中ポンプのメリットがあります。
―軸流ポンプとはどのような仕組みなのでしょうか。
松阪 これは端的に言うと、扇風機の羽根と同じ原理です。扇風機は軸があって羽根がぐるぐる回っていますよね。その軸に対して同じ方向に、扇風機は気流ですけど、水流がまっすぐ流れるというのが軸流ポンプです。モーターから短いシャフトを出したその先に羽根車をつけて、出る水はまっすぐそのまま配管で持っていくことができます。

出荷を待つ製品群(ポン太)

 陸上にあるモーターからロングシャフトで下の羽根車を回すとなると、シャフトの長さや羽根の位置などに制約が生じてしまいます。我々の水中ポンプの場合は、水の底にポンプを置いてやって、そこから自由に配管や長さを決められます。まっすぐ上げるなり、いったん横方向に導いて上に上げるとか、自由に施工ができるわけです。そういう柔軟性があるものですから、それぞれのユーザーさんのアイデアに基づいて使用できるという部分において、ご愛顧いただけるようになったと思っています。
―あまり高い揚程の必要がなく、かつ大量の水を動かせるというのは、どんな用途の池になりますか。
松阪 揚程を出さずに大量の水を動かすというのは、まさに養殖場の、魚を飼うための使用に向いています。池の中には基本的に飼育槽と濾過槽があって、濾過槽の水を汲み上げて飼育槽に戻すなり、飼育槽から沈殿槽に入ってそこから隣の濾過槽に水を上げるなり、どこかでポンプで水を動かすわけですけど、その際に高い揚程、高い圧力で水を動かす必要は全くないんです。水位差は何十㎝もなく、10㎝、20㎝程度、距離にしても配管で5m、10mまでという場合は、配管抵抗を考えても揚程は2〜3mもあれば済みます。
 揚程が10mとか20m近くのポンプもありますが、錦鯉の一般的な循環である低いレンジで使うには、エネルギー効率の点でもったいない部分があるんです。その点で、弊社のポンプは錦鯉飼育のために設計した、まさにドンピシャと言えます。揚程レンジ、水量レンジが魚の生産、飼育に合っているので、最小限の電力で十分な量の水を動かすことができます。
―当然、電気代も安く済むわけですね。
松阪 はい。ドカポンとポン太は省電力ということも大きなポイントの一つです。
―そして長寿命という面では、ドカポンはキャンドモーターという特殊なモーターを使っていると。
松阪 一方ポン太は乾式モーターという、より一般的なモーターを使っているんですが、これもモーターの寿命をいかに長くするかというところに焦点を当てた設計になっています。「十数年前に入れて、まだ動いてるんだけど大丈夫なのかな?」なんてご連絡をいただいたりすることもあります。

ドカポンの羽根車はステンレス製。他の主材にもステンレスを使用

ドカポンの筐体

―一般的に、水中ポンプはどういうところが故障しやすいんですか?
松阪 モーターの中に水が入ってきてしまうというのが、ポンプがダメになる一番の原因です。そこで水中ポンプには、モーターの中に水が入らないように、いろんな形のシールというものがあります。ポン太は寿命を長くするための工夫として、より水が入りにくいダブルメカニカルシールを採用しています。
 さらに、モーターの回転速度にも特徴があります。一流メーカーさんの水中ポンプでも、3年も連続運転すればダメになってくる部分があるのは構造上仕方のないことで、メカニカルシールの寿命が尽きればモーターの中に水が入ってしまうんですが、シールの消耗はモーターの回転による摩擦が関係しています。一流メーカーさんの製品の中でも汎用ポンプの場合、基本的に弊社のモーターの2倍のスピードで回るモーターを使っています。つまり弊社のモーターはゆっくり回転します。
―回転速度が速いほど、シールの摩耗も早くなるわけですか。
松阪 そういうことです。回転が速ければ同じ出力でもモーター自体を小さくできて、かつコストを下げられるというメリットがあるのですが、弊社のポンプの場合は若干の重量増、コスト増は二の次として、より長寿命で一回買えば安心して長年使っていただけることを重視して作っています。
 シールの摩耗に関しては、回転数の2乗がシールの寿命と言えます。ポン太のモーターの回転数は、一般的な水中ポンプの半分のスピードです。半分なのでシールの寿命は2倍かと言うとそうではなく、ほぼ4倍以上ということになります。2年半から3年ぐらいが寿命の汎用ポンプに比べて、「このポンプはもう10年動いてるんだけど大丈夫なのかな?」とおっしゃるお客様がおられるのはそういうことなんです。長ければ10年とか15年とか、そういうスパンでお使いいただくことができる製品です。
―ポン太はダブルメカニカルシールと低速回転モーターがキモなんですね。一つ気になるのが、モーターの回転をゆっくりにするということは、水の循環速度が落ちてしまうのでは?
松阪 一般的にはそのとおりです。弊社のポンプは揚程を低く、かつ水量を多くするようにしているんですが、回転がゆっくりなぶん羽根車のサイズが一般のポンプよりもはるかに大きいんです。
―回転数は少なくても、羽根車の外周スピードは遅くないんですね。
松阪 羽根車の径を大きくしているのが、ゆっくり回るモーターで大流量というポンプの性能を出しているポイントなんですよ。
―なるほど。
松阪 少ない回転で、よりたくさんの水を動かすというところにウエイトを置いた設計にしています。
―すごく考えて作られていることがわかりました。