バージョンアップ重ねて40年

初期モデルの部品供給も継続

―ドカポンとポン太は発売されてどのぐらいになるのですか。
松阪 ドカポンは1985年に1号機を作りましたので40年、ポン太は1991年発売ですからもうすぐ35年になります。
―ドカポンを発売したあとに、ユーザーの声を汲み取ってポン太を開発したということでしたね。
松阪 はい。新潟のほうを中心にドカポンをお使いいただけるようになったんですが、「性能は良いんだけど大きすぎる。もう少し小さなポンプはできないか」というお声がありポン太を作りました。これは錦鯉に100%ターゲットを絞ったと言っていいぐらいです。それが逆に近年では、食べる魚の養殖関係でもお使いいただく機会が増えてきた、そういう流れになっています。
―ロングセラー商品ですから、いろいろな改良を加えて現在に至っているのでしょうね。
松阪 はい。発売当初の35年、40年前と今で、外見上はほぼ変わらず作ってきているんですが、細部はバージョンアップを重ねて、より安心してお使いいただけるようにしてきました。ポンプの命はモーターと羽根車で、ドカポンにしてもポン太にしてもモーターは年々改良、改善を加えてきましたし、羽根車は形状は大きく変えてないんですが、より効率を上げ、耐久性を高めるという意味で、ドカポンは近年はステンレスの羽根車を使っています。水中ポンプはいろんなメーカーさんが出している中で、ステンレスの羽根車を使っているところは少ないんです。
 一方でポン太の羽根車は樹脂製にしました。樹脂ですから腐食しにくく、軽い羽根車を回転させることで効率を上げるための改良です。塩を使ったりすると、金属の羽根車は腐食の問題が起こりやすいので、機械にとっては本当に厳しい条件なんです。そういう部分で、樹脂製の羽根というのはより寿命を伸ばす効果を発揮してくれます。

ポン太の樹脂製羽根車。耐腐食性、軽量性に優れる

―それぞれのポンプの性格に合わせて素材を使い分けていると。
松阪 そして改良を続けると同時に、発売当初の1980年代の装置に対応する部品供給を今もしています。
―それは素晴らしいアフターフォローですね。
松阪 基本的には最新型を使用していただくのが一番なんですが、当時のものをまだ生かせるという作り方をしています。「何十年も同じものをよく作ってるよね」なんて言われるんですけど、こちらとしては意を得たりといいますか、それを狙っているところでして、お客様に安心して弊社の製品をご採用いただけている部分があると思います。機械屋としては非常に地味なやり方なんですけど、細く長くという感じでやらせていただいています。
―品質本位、ユーザー本位を長年続けてきたからこそ、現在の信頼があるのでしょうね。
松阪 松阪の製品なら問題ない、安心と思っていただけるように……。昨今の例に漏れず、ドカポンもポン太も、昔と比べてのコスト増は避けて通れなくなっています。お客さんからは「今はそんな価格なの?」と言われることもありますが、それだけ長持ちするんだから仕方ないよねと、最終的にはご納得いただけるのはありがたいことです。
―製品はすべてこちらの工場で組み立てているんですか?
松阪 そうですね。ただ、一から十まで我々がすべて作れるわけではありませんので、モーターにしろ羽根車にしろ、我々の専用設計をモーターメーカーさんなり、樹脂成型、鋳物の成型・加工などの協力会社さんが製造してくださって、初めて我々がセットメーカーとして成り立つわけです。大メーカーさんのようにすべてができるわけではありませんが、このやり方で長年継続して作れています。
―鯉関係で言えば曝気機の「サンタ」という製品もありますね。

欧州メーカーと提携して発売中のドラムフィルター

松阪 数が多く出る製品ではないんですが、養魚場さんの越冬池などの深い池で、水を動かすという意味合いで長らくお使いいただいているものになります。
―どのような層をターゲットにした製品なんでしょうか。
松阪 サンタは養魚場の中でも特に錦鯉に的を絞って開発した製品で、養鯉場さんのニーズに応えたものというところですね。曝気装置としてはまず水車があるんですが、越冬池などで曝気したい、水を動かしたいとなると水車はちょっと不向きなものですから。空気を吸い込んで水中でエアレーションをする装置ができないかな、ということで作った製品がサンタになります。
 サンタは曝気装置ではありますが、ポン太の装置を利用して作ることをテーマにしており、モーターはポン太のもの、羽根車はサンタ専用になっています。泉水池だけでなく、2・5m、3mあるような深い野池でも、底部の水を適時動かすためにサンタを入れてエアレーションしているというご用途は、ここ15年から20年でよく伺っています。
―水量の多い池での使用が前提になりますか。
松阪 そうですね。愛好家さんにお使いいただく機会はあまりないかもしれません。ですが、飼育槽で強いエアーを吹かしたいという方もいると思います。そんなときのために、ポン太を用いて水中で配管を横方向に出し、気中の空気を吸い込んで水中に出すことができるノズルをご提供できるようにしています。ドカポンも同じようにジェット噴出することができます。
―それは便利ですね。
松阪 そういうご用途にも対応できますということで、サイズ、流量に合ったノズルをこちらでご用意しています。サンタではちょっと大きいというときにはご相談いただければと思います。

魚にとっての「生命維持装置」

長く使える製品をこれからも

―ポンプ類はもちろん、他の製品においても長寿命というのが、御社の基本方針になるわけですか。
松阪 ポンプにしろ水車にしろ、大仰な言い方かもしれませんが生命維持装置だと思うんです。だとすれば、その寿命は大事な魚にとっての大きなリスク要因になり得ます。寿命が短ければ、そのぶんリスクが増えるわけですよ。寿命が短くても安い製品であれば、一時的にはたくさん買っていただけるかもしれませんが、長年使っていただく、継続して使っていただくことを考えたとき、やはり最終的には良いもの、安心して使えるものが選ばれるだろうというのが、創業以来の弊社の考え方です。何を置いてもまずは寿命をしっかりと確保する、そういう考えでやらせてもらっています。
 形あるものはいつか必ず壊れるのですが、壊れるにしても一度に全部動かなくなるのではなく、何か予兆なりがあって、完全に悪くなる前に交換していただく……。そうなるような設計を心がけています。
―ポンプは止まることなく、ずっと動き続けなければいけないものですからね。お話を聞いてきて、御社の製品作りにおけるポリシーがよくわかりました。ところで会社自体は創業して何年ぐらいになるんですか?
松阪 定款を作って登記したところから言うと、もう50年は超えてるんですけど、「魚へん」(魚偏)の仕事になってからで言うと40年余りというところです。
―特許もいくつかお持ちだそうで。
松阪 羽根車や水車など、部分部分でいろんな特許を取らせていただいて。我々は必ずしも特許が飯の種になるような商売ではないんですが、ありきたりの技術を用いた装置ではないんですよというアピールも含めて取得し、それを製品にフィードバックしています。
―会社の場所はずっとここ(岸和田市八阪町)なんですか。
松阪 そうです。町工場があって住家があってという地域で、大きなトラックが入れるわけでもなく不便さはあるんですけどね。限られたスペースで少人数で切り盛りできる体制をというのが、弊社のかねてからのスタイルなものですから。
―最後に、今後の方向性、目指しているものがあれば。
松阪 基本的には、長く使っていただける製品をこれからも目指していきます。新しいものをどんどん出すというよりも、魚の飼育に欠かせない製品をしっかりと長く使えるよう、部品供給も含めてそういう体制を維持できるようにと考えています。
―長年販売している製品は、大きなアピールはせずとも適宜改良が施されているということで、それもロングセラーの秘訣だと思います。
松阪 広告などで「新しくなりましたよ!」というのはあまりやってなくて、アピールが少なすぎるだろう、下手だろうと言われるんですが、確かにそのとおりで。
―職人集団という感じで、それはそれでありかと(笑)
松阪 20年、30年、40年と同じ製品を出し続けていますが、実はブラッシュアップされているということを、この機にお伝えできればいいなと思っています。
―その年数は、積み重ねてきた信頼の証ですね。今後も御社の真面目な製品作りに期待しています。

㈲松阪製作所・従業員の皆さん