年々困難さ増すパール生産

それでも元祖として守り続ける

—関口さんが昭和屋なのは誰もが知るところではあるんですが、パールも根強いファンがいます。

関口 パールについてはあまり話せることはないんですが(笑)……。パールも小さく上げるようになったので、稚魚池ではあまり光りがわからなくて。越冬中に光りが出てくるものを残すという形になってきました。

—パールは片親がパールなんですか?

関口 これは両方パールじゃないとできないです。いろいろ試したことがありますけど、パールとそれ以外をかけると一つも光らないんです

—パールではない普通の銀鱗も出るんですよね?

関口 それが出ないんですよ。パールからはパールしか出ません。普通の紅白や三色は出ますけど、そういうのは残さないですね。

—パールについては新しい血を入れるのがなかなか難しいですよね。よそから持ってこようと思ってもいないでしょうし、いたとしても関口さんから行った鯉だったり。

関口 これはもう不可能ですね。でもたまに、パールとはまでは言えなくても、パールみたいな銀を噛んでるやつが出ることがあるんです。昭和のオスでたまたまそういうのがいたので、それを取っておいて去年付けてみました。光りはまだないですけど。

—パールは御三家全部作っているんですか?

関口 今まで昭和はやってなくて、基本的には紅白と三色です。

—パール同士となると、どうしても血は近くなってしまいますよね。

関口 近くしないとパールにならないんです。だから一度血を離して、また戻すというようなやり方で。

—ああ、そういうことですか。そこまで時間と手間とコストをかけても率は低いんでしょうね?

関口 低いですよ。でも他に作ってる方がいないので、ここにしかいないみたいな感じでやってますけど。

—秋上げの数は少ない?

関口 逆にいっぱい上げるんです。光りがなくてわからないから。

—パールの感じがわかるようになるのはいつ頃なんですか?

関口 今だと3月以降ぐらい。以前は秋上げの時点で光ってるものを上げてた感じなんですけど、その後に出てくることがわかってきて。小さく上げるようになったからそうなったのかもしれませんけど。

—関口さんのパールって、みんながイメージしている「パール像」があると思うんですよ。だからどうしても要求が高くなるのかなと。

関口 パールって光りが上品なんですよね。言い方を変えれば派手さがないというか、ダイヤ銀鱗と並ぶとダイヤのほうが派手に見えちゃう。それに、銀鱗紅白のような模様は付かないので……。最近の銀鱗紅白は模様もすごくいいですからね。

—関口さんがやめてしまうとパールはいなくなってしまうので、これはぜひ続けてほしいと思います。

冬は豪雪に埋まる湯沢のハウス池では秋上げの当歳を飼育。南田中のハウス池が空き次第、随時移動させている

若鯉大会の総合に再挑戦したい

新・関口昭和も目指しながら

—5連覇ということで、若鯉総合=関口さんという印象を皆さんが持っていると思います。そうなると「また来年も」みたいな話になってくるでしょうね。

関口 運も重なってのことなので、6連覇はちょっと(笑)。ただ、欲を言えば若鯉大会の全体総合はもう1回挑戦したいですね。今はもう軽々しくは言えないレベルになってますけど、鯉屋をやっている以上は。

—全体総合は当歳の頃から特別に良い鯉だったんですか?

関口 いや、そこまでではなかったんです。あれは新潟オークションに出したんですよ。2歳だったかな、そのとき成田さんが買ってくれて。

—それからは成田さんが飼育を?

関口 そうです。成田さんが3歳立てして、すごく良くなったよって連絡をもらって。

—実際に見て、本気でトップを狙えるんじゃないかと?

関口 期待感はすごくありましたよ。大急ぎで広島に行ったものだから、スーツも持っていかなくて向こうで買ったんですよ(笑)

—あれから10年経って、若鯉大会のレベルはさらに上がっていますし、ライバルも多いです。

関口 全日本で全体総合を狙いたいと言ったほうがカッコいいかもしれないですけど、それは現実的に不可能な領域なので。でも若鯉大会はサイズ的には作れますから、チャンスは多くはないですけど、作っている限りは挑戦したいですね。

趣味が高じて作ったホームジムで日々トレーニングに励む関口さん。近所の人や友人たちにも開放している

—今年の全日本で昭和が久しぶりに全体総合になりましたけど、ああいうのを見ると刺激になるんじゃないですか?

関口 やっぱり嬉しいですしね。御三家と言われても、紅白、三色と比べるとどうしても体で劣っていると見られる部分もあって。それはまあしょうがないことなんですけど、昭和でも取れるんだというのはすごく嬉しかったですね。

 ただ、賞を狙うのとは別に、新しいタイプの昭和を確立したいという思いもあります。今、クラシックというか従来からのタイプと、近代昭和と言われる2タイプがありますよね。それに加えてもう1つできないかなというのがすごくあって。

—クラシックというのは墨が多い、だれもが思い浮かべる昭和。近代昭和は白地を見せる上品なタイプというイメージです。そこにもう1つ加わるとなると、どんなイメージでしょうか。

関口 今、墨をメインに作った昭和の枡が1つあるんです。墨勝ちの昭和は質が良くないと全然綺麗に見えないんですが、質の良い墨が多めにあると、ちょっと異様な雰囲気に見えるんですよ。それが確立するかどうかはまだまだ難しいんですが、1池で試しているところです。墨ギワが良いことが前提なんですが、他の品種みたいな雰囲気があります。

 うちの昭和って、どちらかというと女性っぽいというか、力強いタイプの昭和とはちょっと違うんですよ。だから力強い、墨の効いたタイプを1腹やってみようと思ったら、逆に墨が強すぎたんですけど、今までとはちょっと違う雰囲気になって。墨の付き方が変わってるというか。まだまだ漠然としてますけど、パッと見て「今までとは違うな」という印象はすごく大事で。

—新しい関口昭和ですね。

関口 挑戦したいと思ってます。品評会でも、並んでいる中でパッと目に入るのはすごく重要ですから。昔、若い頃は全然国魚賞が取れなかったんです。そのときは自分の鯉が一番良く見えちゃって、負けた理由がわかってなかったんですよ。結局それって自己満足で、その考え方が悪いんだなと後になってわかるようになりました。自分だけが見て良いのではなくて、人が見て良いと思う鯉を作らなきゃいけないなと。品評会だけを目指してるわけじゃないんですけど、初見のインパクトが強い鯉を作ろうという気持ちはありますね。

—塩沢のこのあたりは、同じ新潟県内でも小千谷や山古志といった生産者が多く集まるエリアからちょっと離れていますよね。地理的なハンデがある中で、お客さんに来てもらえるような魚を作るという意識が重要なんでしょうね。

関口 まさにそのとおりで。どこにでもいるような魚だと来てくれませんから。ここまで来てくれるお客さんの目的に応える魚を揃えないと。

—今年の新しい親鯉での生産も楽しみですし、関口昭和のさらなる進化に期待が高まりそうです。本日はありがとうございました。

多雪となった今冬。2月下旬の取材日も雪が強まり、関口養鯉場周辺は背丈をゆうに超える雪の壁ができていた