ふらり鯉屋めぐり 瀧川養鯉場(広島県世羅町)
信頼を積み重ね、認められる鯉作りを
「昭和を軸に自分色を出していきたい」
有力生産者がひしめく広島で、確かな存在感を放つ瀧川養鯉場は、瀧川博明さんが創業。御三家を主力に衣、五色、孔雀などが全国大会で話題になることも少なくなかった。
現在は子息の八静さん、了徳さん兄弟が屋台骨となり、瀧川養鯉場の新たな個性を打ち出すべく奮闘している。(訪問:8月23日)
―お忙しいところ突然お邪魔してすみません(笑)。今の時期(8月23日)は選別の毎日ですか。
瀧川 そうですね。2次選、3次選をやりながら、3回目の稚魚を放したところです。このあとギリギリ4回目までいけるかどうか……。
―4回目までやるんですか。業務は八静さん、了徳さん、そしてお父さん(博明さん)の3人で?
瀧川 ときどきアルバイトも1〜2人来てもらっていますが、結構しんどいです(笑)。
―稚魚池はどのくらいあるのですか。
瀧川 1町7反です。父がやっていた頃より5反くらい増やしましたけど、それでもまだ足りないですね。今の倍あったらもっと楽だろうなと思います。

―腹数は毎年どのくらい?
瀧川 10腹から15腹といったところです。
―以前の瀧川養鯉場さんは御三家をメインにしながら、衣や五色も注目されていましたが、現在の生産品種は?
瀧川 今は御三家と無地ものを少し採っています。
―無地ものというのは、からしとか、それらの銀鱗などですか。
瀧川 そうですね。今後はできるだけ品種を絞っていきたいと思っているんですよ。
―御三家をメインで?
瀧川 特に昭和を軸にしていきたいなと。ただ、昭和一本で行くには今のところそれだけの親が揃っていませんし、他の品種が欲しいというお客さんもいますから、経営的なことも考えて昭和を中心に紅白、三色も採っているという感じです。
―では、これから少しずつ昭和の比率を増やしていくと?
瀧川 ちゃんと評価してもらえるようなものができれば、昭和を軸にして展開していけるかなと思います。新潟は大日さん、伊佐さんをはじめ、昭和を作っている方は結構多いですが、広島では少ない印象です。
―確かに、広島にはあまり昭和のイメージはないですね。
瀧川 広島で軸が昭和の生産者は少ないと思うので、昭和をメインにしていきたいというのはそういった理由もあります。それに、阪井さんのところにはすごいお客さんがたくさん来られるわけで、うちはせっかく阪井さんの近くで生産しているので、そういったお客さんに少しでも来てほしいですから。
広島は有名な生産者がたくさんいらっしゃるので、みんな年に1回は行くと思うんですよ。その流れでうちに寄ってみようと思ってもらうために、どんなものを作ればいいかと考えたとき……。



―瀧川養鯉場ならではの強みを作る必要があるわけですね。
瀧川 僕はこの業界に入って今年で7年目なんですが、父の代からいろんな品種を作ってきた中で、自分としては看板品種が何なのかと。もちろん喜んでくれるお客さんもいますけど、客観的に見て、うちの鯉は全国の中でどのくらいの水準なんだろうと考えたとき、このままでは全部中途半端になってしまう気がして、品種を絞っていこうという考えになってきました。
―なるほど。そうなると八静さんの代になって、親の系統もかなり変わってきた?
瀧川 以前からの親も残っていますし、それを使うこともありますけど、できるだけ今のトップクラスにいる人たちの親を使うようにしています。僕は大日さんの昭和が好きで素晴らしいなと思っているので、親に使わせていただくことが多いです。でかくて綺麗な鯉を作るのはすごく難しいですが、夢があるので作っていて楽しいです。それと、綺麗で長持ちする鯉ですね。長持ちするほど生産者としての信頼感が高まると思うので、それを積み重ねていけるように。
―今は信頼を築いている過程にある?
瀧川 そうですね。トップの生産者さんの鯉を使わせてもらうのは、それも信頼につながると思うので。
―説得力というか、お客さんの受け止め方も違うかもしれませんね。
瀧川 安心感があると思います。なので、僕らとしてはありがたい気持ちで使わせてもらっています。
―今年の今のところの出来はいかがですか?
瀧川 自分が今まで作ってきた中では一番できていると思いますけど、目指している合格点かというと、まだ全然。トップから裾まで、どの腹でもちゃんと自分なりの合格点が出るものが作れたら満足できるのかなと思いますけど、全然まだまだですよ。
―目指しているものは遠い?
瀧川 やっとスタートできたかなという感じです。目指すべきものが見えてきたので、そこに近づくために一生懸命やろうと思います。


―目標とする鯉の具体的なイメージはありますか?
瀧川 好きな鯉でいえば、2020年の全日本でチャンピオンになった大日さんの紅白ですね。頭がすごくでかくて体高もあって。
―ああいう体型の昭和を?
瀧川 はい、自分が感動する鯉を生産してみたいです。今の何も成し得ていない現状からは大きすぎる夢だとは思いますが、これから先、今の気持ちを忘れずに努力を積み重ねれば、叶うと信じています。
―広島には著名な生産者が多いですが、そういう環境は刺激になりますか。
瀧川 いやー正直なところ圧倒的劣等感ですよ。全国的に見ても素晴らしい生産者ばかりですから。その中でうちがお客さんに必要とされて残っていくためには、味というか色というか、みんなに認めてもらえるような鯉を作っていかないと……。
―瀧川養鯉場の個性を確立しないと周りに埋もれてしまう?
瀧川 そうですね。名前が出たときにちゃんとイメージが湧く、特徴が現れている鯉屋が残っていると思うので、その中でうちの色をちゃんと出していかないと、何のためにあるんだろうということになってしまいますから。
―最近は中羽がダブついていて、上のほうしか売れないという話を聞きますが、そういう傾向はありますか?
瀧川 それは感じます。だから、いかに良いものを作るかが大事になってきます。
―国内と海外の販売比率はどのくらいですか。
瀧川 今は海外が7割、国内3割といったところです。
―海外はどのへんの国へ?
瀧川 ヨーロッパは父の代からなので古くて、イギリスやオランダが多いです。東南アジアはタイやマレーシアなどがメインですね。
―八静さんは7年目ということでしたが、この仕事は向いていると思いますか。
瀧川 どうですかね(笑)。僕はどちらかというと職人気質な部分があるので、そういう意味では向いているところもあるかもしれませんが……。
―お父さんにもそういうイメージがあります(笑)。了徳さんも八静さんと同じくらいのキャリアがあるんですか?
瀧川 3つ下なので、僕より3年短いです。
―兄弟で作り出す瀧川養鯉場の昭和、これからが楽しみです。お二人が納得できる鯉ができたときに、またお邪魔したいと思います。