商品開発に飼育現場から提案を
錦鯉の素晴らしさ伝える役割も

―池を作った理由として、「大きく育てたいから」というお話がありましたが、日動さんの商品開発に寄与するためという部分もあるのでしょうか。
吉田 はい。商品を開発するにあたっては、弊社の開発部と大学の機関で様々な研究をしているんですが、鯉屋さんの環境と研究機関の環境では、結果が異なる場合もあるんです。研究機関というのは、あくまでスタンダードのひとつなんですね。私は世界中の愛好家の池や鯉屋さんを回っていますが、その土地によって水質は異なりますし、入っている鯉の筋も違います。100軒あれば100通りの仕上げ方がある中で、研究機関とは違う池が必要だなと以前から思っていました。
―1トン池ではできなかったことが、この池ではいろいろやれそうですね。
吉田 そうですね。机上ではない、実際の現場からの提案ができるかなと。自社商品の「生菌ゼオライト」や光合成細菌の「たね水」、「野池の素」を使ったりしてますし、温度計やpHメーターも自社のものです。
―日動さんの製品があらゆるところに使われているわけですね。湧清水も黒塗装で日動仕様っぽくなっていました。
吉田 露天だと、塗るのと塗らないのでは劣化が全然違うから塗ったほうがいいとアドバイス受けて。
―これは外観のためではないんですね。失礼しました(笑)
吉田 見た目じゃないです(笑)。池を塗るときについでに塗ってもらって、JPDのロゴを貼り付けて。
 それと、池を作ったもう一つの背景として、日本の愛好家の熱量が他国と比べて弱くなっているなと感じるようになったこともあります。生産者は若い人がたくさんいますが、愛好家はそうではないですよね。私がSNSをずっと続けている理由は、錦鯉の素晴らしさを多くの人に知ってもらって、錦鯉を飼う人が増えてほしいという願いからです。だからまずは自分自身が錦鯉を楽しんで、それを伝えていかなければならないと思っています。

木板で蓋をした濾過槽。ウッドデッキに溶け込んでいる
長い水路を通って2か所から池に戻る

1トンFRPも引き続き使用。景観を損ねない配置にセンスが光る
湧清水20型。塗装して屋外使用における劣化を最小限に

―なるほど。吉田社長のSNSはフォロワーが多いので、影響力に期待が持てます。
吉田 屋外池にしたのも理由があって……。鯉のことだけを考えて本気で仕上げようと思ったら、絶対ハウスになるんですよ。だから皆さんに「ハウスじゃないの?」と言われたんです。でも、ハウスにすると家族との距離が遠くなってしまうのではないかと。なのでハウスにはせず、家と連結する池を作りたかったんです。子供の友達が来たら、その子も見れる、妻の友達が来たら、その人も見て楽しめる。宅配業者のお兄さんやお姉さんに見せたり、近所の人にも見てもらったり……まずはそこからかなと。
―鯉ファーストなら当然ハウスなのに、あえて屋外にしたというのは何か理由があるんだろうなと思っていました。
吉田 子供がいつまで付き合ってくれるかわかりませんが、妻と義母はパグのブリーダーで、生きものの品評会に精通しているんですよ。いろんな品評会に家族で出して楽しんでいます。
―お義母様のお名前で大きな賞も取られていますよね。
吉田 義母は「勝子」と書いて「まさこ」さんと読むので、強いんです(笑)。以前は義母の名前で出すと賞を取るけど、私の名前では取れないというジンクスもあって(笑)。子供にも生きものの面白さ、大切さというのを、犬や鯉を通じてわかってもらいたいという思いから、品評会は家族の名前で参加して、飼育も子供たちに体験させたいと思っています。
―もしこれがハウスだったら、そこに出入りするのは社長だけになってしまうでしょうね。
吉田 そういうことなんです。だから意外と、ハウスの壁というものがあるのかなと。でも周りの皆さんには、「吉田さんは絶対に2〜3年後にハウス池を作るよ」と言われていますけど(笑)。皆さんから池作りについてのアドバイスをたくさんいただく中で、唯一聞かなかったのはハウスにしなかったことぐらいです。
―屋外池ですけど、池を半分くらい覆う屋根があるのはいいですね。日陰があるほうが鯉は落ち着きますし。
吉田 この屋根はカーポートなんですよ。
―ああ、言われると確かにそんな感じですね。
吉田 最初は作ろうと思ったんですけど、カーポートを切ってもらったほうがカッコいいし、丈夫で安いということに気づいて。日が昇る場所と落ちる場所をよく観察して、設置場所を決めました。10時ぐらいまでは日が差して、11時から12時ぐらいまでの紫外線が一番強い時間帯に太陽が屋根の上に来るようにして、3時、4時ぐらいには反対側から日が差すようになっています。

JPDより発売中の自動給餌器「フィーダープロ」(FEEDER PRO)。
効率的な成長のためには欠かせないアイテムで、写真はAC電源とソーラーパネル発電の両方で使用できるタイプ

(後編に続く)