台風25号による千葉県豪雨水害
印旛沼堤防決壊の被害と再建に向けた歩み

 9月22日㈷、台風25号による記録的な大雨により、千葉県北西部の印旛沼周辺で堤防が相次いで決壊し、広範囲にわたる浸水被害が発生した。県内では錦鯉の生産・流通に携わる業者も大きな被害を受け、施設や設備、飼育鯉などに甚大な損失が生じた。なかでも、印旛沼から500〜600mに位置する谷養魚場は敷地のほぼ全域が冠水し、約10万尾の魚が被災するなどその被害総額は約10億円にも及ぶ。営業再開と事業の再建に向けた復旧作業が進められるなか、今回の水害による被害の実態と再建に向けた動きを追った。

創業65年の養魚場を襲った
未曾有の水害

 9月22日㈷早朝、台風25号による記録的な大雨の影響で、千葉県成田市周辺の印旛沼流域では堤防が相次いで決壊し、広範囲にわたる浸水被害が発生した。
 印旛沼は千葉県北西部に位置する利根川水系の湖沼で、古くから農業用水や水道用水など、地域の暮らしを支えてきた一方、大雨による洪水を繰り返してきたことから、かつては「あばれ沼」とも呼ばれていた。
 現在は「北印旛沼」と「西印旛沼」に分かれており、周辺には平坦な低地が広がる。大雨の際には水位が上昇しやすく、堤防や排水機場などによって水害から地域を守ってきた。
 今回、北印旛沼では約100mにわたって堤防が決壊したほか、印旛沼に流入する角川集水路や長門川でも堤防が決壊。周辺地域では道路や農地、住宅などが浸水し、広範囲にわたる被害が発生した。
 堤防決壊によって野池の錦鯉が流されるなど、県内の生産者や流通業者が数多く被災したが、なかでも創業65年を誇る谷養魚場は甚大な被害に見舞われた。
 東京ドーム約6個分(約30町歩)に相当する広大な敷地を有し、販売所やハウス池、野池をはじめ、釣り堀やパターゴルフ場などを備える同場。しかし、決壊した堤防から500〜600mの位置にあったことから、敷地のほぼ全域が泥水に覆われた。

千葉県成田市下方の谷養魚場の被害

通常であれば左手前に釣り堀、右奥にパターゴルフ場が広がるが、
敷地内のほぼ全域が冠水した谷養魚場。奥に見えるのが北印旛沼

水槽があふれたことで濾過槽に入ってしまった錦鯉

泥水に浸かった品評会用の丸プール

 深い場所では水位が1・5〜1・6mに達し、ハウス池などの施設だけでなく、敷地内にあった車両や重機、ポンプ、モーターなど、養魚場の運営に欠かせない設備もすべて水没した。
 また、錦鯉を中心に金魚、メダカ、川魚など約10万匹が飼育されていたが、その大部分が流出するなど深刻な被害となった。
 錦鯉の生産においては、毎年その規模を拡大するなど関東地域で最大の生産量を誇っているが、今回の水害によって当歳魚が約5万尾、2歳魚以上が約3万尾、預かり鯉が200尾超、生産に不可欠な親鯉も200尾超流出した。これから本格的な錦鯉の販売シーズンを迎える時期だけに、その損失は極めて大きい。谷健治代表によると、施設や設備などを含めた被害額は約10億円にのぼる見込みだという。
 自家産をはじめ全国各地の生産者から錦鯉を集め、国内のみならず海外の愛好家や業者が訪れる販売拠点となっていたことから、今回の被害は一養魚場の被災にとどまらず、これまで築き上げてきた販売体制や在庫、今後の生産計画に大きな打撃となった。
 また、同場では全日本総合錦鯉品評会をはじめ、全国大会や地区大会など、各地で開催される品評会で使用する丸プールや関連備品の管理も行っており、これらもすべて浸水したことから錦鯉業界全体にも影響を及ぼす被害となった。

飼育用品を扱う販売所
浸水で設備や資材が散乱したハウス内

停電による酸欠で死んでしまった錦鯉

水が引くまでに3日間
多くのボランティアが支援

 印旛沼の堤防決壊直後、谷養魚場の敷地内には大量の泥水が流れ込み、陸上から施設へ近づくことさえ困難な状況に。浸水した水が引くまでに約3日を要し、9月25日㈮になってようやく水が引き始めたことで、敷地内に残された被害の全容が徐々に明らかになった。
 水が引いた後に現れたのは、流入した泥とごみで覆われた施設と、浸水によって使用できなくなった機械や設備だった。
 さらに、流出した魚については、広範囲に水が流れ出したことから、回収そのものが極めて困難な状況となった。
 こうした被害のなか同場の復旧を支えたのが、従業員や関係者、そして多くのボランティアたちだった。9月26日㈯、27日㈰の週末には100人を超えるボランティアが現地に入り、被災した荷物や資材の運び出し、施設内の片付けなど、スタッフとともに復旧作業にあたった。

多数のボランティアによる片付け作業

錦鯉文化産業振興議員連盟の浜田靖一会長が視察
水没した多数の給餌器

錦鯉振興会関東甲信地区会員による清掃作業
水没した軽トラックをフォークリフトで移動

 一方、周辺地域では国や千葉県などによる復旧作業が早急に進められ、印旛沼周辺の排水や堤防の応急措置が行われた。決壊箇所では、ポンプ車による排水や大型土のう、遮水シートなどを用いた緊急の締切作業が進められ、9月30日㈬には角川集水路と長門川の決壊箇所で荒締切が完了するなど、周辺の復旧も段階的に進んでいる。
 10月2日㈮には、錦鯉文化産業振興議員連盟の会長を務める浜田靖一衆議院議員、福島眞司成田副市長をはじめ、水産庁や千葉県の職員らが谷養魚場を訪れ、現地の被害状況を視察。浸水によって被害を受けた施設や設備などを確認するとともに、今後の復旧・復興に向けた意見交換が行われた。
 同場の敷地内の一角には、成田市内で発生した災害ごみの仮置き場が設けられ、電気と井戸水が数日で復旧したことから、発生から10日で場内の片付けは約8割ほどまで進んでいた。被害の大きさを考えれば、復旧はまだ始まったばかりともいえるが、同場を支える多くの人々の力によって、少しずつ前へと進み始めている。

千葉県成田市北須賀の(合)三好池千葉支店の被害

ハウス池が背丈ほどの高さまで冠水
増水によって移動したコンテナ

浸水被害の大きいハウス内

早期の営業再開を目指し
施設の復旧作業に取り組む

 谷健治代表によると機械の修理や交換など、施設や設備の全面的な復旧には約3か月を要する見込みだという。現在、谷養魚場では早期の営業再開と事業の再建に向け、スタッフや関係者が懸命に復旧作業にあたっている。また、失われた販売鯉の確保や、来年の生産に向けた親鯉の確保にも取り組んでおり、10月15日㈭から復興の支援者を募るクラウドファンディングも開始されている。
 創業から65年にわたり築き上げてきた谷養魚場の歩みをここで途切れさせないためにも、一日も早い復旧・再開に向けて、今後も幅広い支援が求められる。
 なお、12月5日㈯・6日㈰に上野恩賜公園噴水前広場で開催される「第54回関東甲信地区総合錦鯉品評会」の錦鯉オークション(6日㈰/午後1時〜)において、売り上げの一部が千葉県豪雨水害の義援金として寄付される予定で、より多くの方の参加が期待される。